「プロでも自分の親を介護するのは難しいのですから、素人である私たちが戸惑うのは当然ですよね」

「デイサービスにいるほうが安心」は子ども側の都合

整理整頓もそうです。実家に帰った際、部屋のあちこちに物が出ていると、つい「こんなに散らかして!」と片づけてしまいがちですが、もしかしたらそれは「散らかっている」のではなく、親が「使いやすいようにそう置いている」のかもしれない。親には親の暮らしやすい配置があるので、勝手に乱してはいけないのです。ましてや親の持ち物を勝手に処分するなどもってのほか。親子とはいえ別の人間なのですから、互いを尊重することが大切なんですね。

また、こんなこともありました。「転倒の危険や食事のことを考えると、デイサービスに行く回数は多いほうがいい」と言われ、回数を増やして週に4日ほどのペースでスケジュールを組んだんですね。ところがあるとき母が、デイサービスのことを「学校」と呼んでいることに気づいて。

「一限目は塗り絵。二限目は計算させられるから算数。三限目は漢字を書けと言われるから国語。で、最後に給食食べて帰って来る。まったく学校行くのは疲れるわー」と言うのです。

それを聞いたとき、「そうか、デイサービスにいるほうが安心というのは子ども側の都合で、母は疲れていたんだ。しかもそれを言ったらスタッフさんに悪いと思って我慢してたんだ!」とハッとしたんですね。「ごめんごめん、お母さんやめよう、回数を減らそう」と、すぐに以前のペースに戻しました。そして週に1日、デイサービスに行かずヘルパーさんも来ないフリーの日を作ったのです。母はその日を友達と会う日にして、のんびりと過ごしていました。

「100人いたら100通りの介護がある」と言われますから、なかには毎日デイサービスに行きたい人もいるでしょう。本人の幸せを一番に考えてスケジュールを組まなくてはいけないと学びました。

今回、母との6年間を記した『遠距離介護の幸せなカタチ』の出版に際し、3人の介護の専門家と対談させていただきました。そのなかの1人である「NPO法人 となりのかいご」代表の川内潤先生から、「介護のプロが一番最初に習うのが、『自分の親の介護はするな』ということなんです」と言われたときは、目からウロコがボロボロ落ちました。プロでも自分の親を介護するのは難しいのですから、素人である私たちが戸惑うのは当然ですよね。