「へえ……。こんな住宅街のど真ん中に、寺があるんだね」
 車を降りると、阿岐本が言った。
「はい」
「ここで鐘を叩きゃあ、そりゃあ文句を言う人も出るだろうなあ……」
「はい」
 境内に住職の姿はなかった。本堂の扉が開いているので、覗(のぞ)いてみた。掃除をしている住職の田代の姿が見えたので、日村は声をかけた。
「ああ、あんたか……。たしか、日村さんだったね?」
「うちの代表が、ご住職と話がしたいと申しまして……」
「代表? 親分のことか?」
「はい」
「まあ、上がってくれ」
 まず、阿岐本が本堂に上がり、日村が続いた。
 阿岐本が田代に言った。
「お掃除とは精が出ますな」
「うちは禅宗ですので、作務ですよ」
「なるほど……」
「まあ、小僧でもいればそいつにやらせるんですが、女房と二人暮らしなもんで……」
「そうですか」
 阿岐本が名乗ると、田代も自己紹介した。
「親分さんのところは、若い衆は?」
「四人おります。この日村が面倒を見てます」
「やあ、うらやましいですなあ。うちにも四人くらい小僧がいたら、楽なんだけどなあ……」
「禅宗とおっしゃいましたね?」
「……とは言っても、宗派とはあまり関わりがなくなってますんでね。単立みたいなもんですよ」
「単立……?」
「ああ……。宗派に属していない寺や神社なんかのことを、そう言うんです」
「属していないわけじゃないんですよね?」
「墓の管理から何から、自前でやってますからね。この寺も親父から継いだんです。もう、宗派はほとんど関係ないですよ」
「鐘のことで、苦情があるとうかがいました」
「そうなんですよ。おたくの日村さんにも言ったんですけどね。坊主を長いことやってるけど、こんなのは初めてだって……」