義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 翌日、午前九時五十分に、稔はすでに事務所の前に車を付けていた。阿岐本は、十時ちょうどに事務所に下りて来た。三階から上が阿岐本の住居になっている。
 日村は助手席に座ろうとしたが、阿岐本が「こっちに乗れ」と言ったので、並んで後部座席に座った。
 稔はすでにカーナビをセットしており、すぐに出発した。
「なあ、誠司……」
 阿岐本が言う。「昨日の話だが、ちょっと引っかかることがある」
「何でしょう……」
 阿岐本は即答せずに、「うん」とうなずいてからしばらく考え事をしている様子だった。
 やがて、彼は言った。
「まずは、ご住職の話だ。そのことは、後で話をしよう」
「はい」
 阿岐本が何に「引っかかる」のか気になった。だが、改めて説明してくれるまで待つしかない。
 それから西量寺に着くまで、阿岐本は口を開かなかった。