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 すごい気になっていた。クラウンの男。
 たぶん、夏夫の父親だと思う。同じ街に住んでいるんだから、うちのガソリンスタンドに来たっておかしくはないんだ。
 でも、店長と親しそうだったのもすごい気になる。
 うちのGSは、ちゃんとした会社が経営している。
 暴力団とかヤクザなんかまったく関係ない。会社自体が大企業だからそんなのが関係してくる余地なんかまったくないはず。
 でも、うちのスタンド自体は小さいんだ。売り上げも特別いいって話は全然聞いていない。一応は大きな通り沿いにあるからずっと車は入ってくるけれど、この通り沿いにGSはけっこう他に違う会社のものもあるから。
 そんなんで、ヤクザとか暴力団とかの獲物になってしまう店もあるって話は、聞いたことがある。一緒に働いている大国(おおくに)さんとかから。
 商店街があるんだ。飲み屋街なんかもある。うちのGSから一本向こうの通りになっているけれど。
 そこのお店から、暴力団が金を吸い上げていて、潰れてしまったりするところもあるなんていう、商売関係の話をよくしてくれるんだ。
 基本、GSなんてところは大きな会社だからそういうのはあまり関係ないけれども、お前も将来自分で商売をするなんてときには、いろいろ考えろよ、なんて話。
 だから、すごく気になってる。
 営業は九時まで。
 少し延びることもあるけれど、今日は八時半過ぎからずっと暇で片づけもはかどったので九時ちょうどにはもう営業終了のチェーンを張った。
 九時の閉店になって事務所にもう俺と店長しかいなくなってから、訊いてみた。
 河野(かわの)さん。いつも店長って呼んでいるけれど、河野良純(よしずみ)さん。家が隣り同士だから、祖父(じい)ちゃん祖母(ばあ)ちゃんともずっと昔からお隣り同士。
 俺が祖父ちゃん祖母ちゃんの家に来た赤ちゃんのときから、ずっと知ってる。
 いつも帰れるときには一緒に店長の車で帰っているから。
「店長」
「うん?」
「今日の夕方過ぎに来た、古いクラウンに乗っていた人なんですけど、知り合いなんですか?」
 カウンターの中に入って売り上げを確認していた店長が、顔を上げる。現金はいつも最後に銀行の夜間金庫に入れてから帰るんだ。
 

 

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