「でも、店長も、夏夫の名前まで知っていたってことは、かなり親しいんですか、あの人と」
 ヤクザの組長さんと。
 店長が、ちらっと回りを見る。後ろの席にも前の席にも人が座っていない。確かに、大声では話はできないよね。
 少しだけ、声を潜めるようにした。
「別に秘密ではないけれども、わざわざ広めるようなことではないからね。言わないようにね」
「はい」
 わかってます。
「僕は、あいつと同級生だったんだよ。小中とずっと一緒だった。何故かクラスもずっと一緒でね。高校は違ったけれど、幼馴染(おさななじ)みと言ってもいいぐらいの、古い、親しい友人だよ」
 同級生か。小学生から一緒なら確かに幼馴染みかも。
 そして、高校も行っていたのかあの人。
 なんか不思議だった。ヤクザなんて全然学校なんか行かない人みたいなイメージあったけど。
「夏夫くんのことも、知っているよ。彼が生まれたときからね。もちろん夏夫くんのお母さんとも会ったことがある。お母さんと親しいわけではないけれどもね」
「そうなんですね」
「お母さんは、きっと僕のことは知らないだろうな。あいつもそういうことを、自分にこんな友人がいるとか、そういうのを奥さんとはいえ、他人に話すような奴じゃないからさ」
 コーヒーを飲む。ピザをもう一切れ取った。
「残りは悟くん全部食べていいよ。大丈夫だろ? これぐらい食べても晩ご飯食べれるだろう?」
「平気です」
 運動部じゃなくても、男子高校生の食欲を嘗(な)めてはいけない。そもそもGSのバイトだって体力勝負だ。
 

 

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