〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。坂城悟はアルバイト先の店長とヤクザである長坂について話をする。

〈前回はこちら

「なるほど、一緒に帰らない日はどこに行くんだろうって思っていたけど、そういうことがあったんだね。バイト・クラブか」
「そうなんです」
〈カラオケdondon〉は店長も知っていた。行ったことはないけど、評判のいいところだっていうのは知っていた。
「うん、いい話だね。〈カラオケdondon〉の筧(かけい)さんか。今度カラオケに行く機会があったら、そこへ行ってみようかな」
「あ、そうしてください。いいところですよ。こぢんまりして、清潔感あるし、親しみやすい感じで」
 そんなにたくさんカラオケに行ってるわけじゃないけど、すごく雰囲気がいいところだと思ってる。
「しかし、縁なんだね」
「縁、ですか」
「僕が生まれたときから知ってる夏夫くんがずっとそこでバイトしていて、同じように赤ちゃんのときからずっと隣りで暮らしてきた悟くんと友達になるなんてさ。まさしく合縁奇縁ってもんだ」
「そういうものなんですかね」
 話が長くなるんだったらって、家に帰る前にファミレスに寄った。
 晩ご飯はいつも帰ってから食べるから、ファミレスから祖母ちゃんに電話した。ちょっと店長と話があってファミレスに来てるから、小一時間ぐらい遅くなるからって。もちろん店長も電話に出てくれた。
 お腹が空いているけれど、祖母ちゃんがご飯を作っておいてくれているし店長も家でご飯を食べるから、二人でピザを一枚取って、後はコーラとコーヒー。
 これぐらいならおやつみたいなもんだから、全然大丈夫だ。
「そう」
 店長がピザを一切れ齧(かじ)ってから言う。
「あのクラウンに乗ってきた男は、夏夫くんの父親だよ。名前は聞いてる?」
「長坂さんって」
「そう、長坂康二(こうじ)だ」
「やっぱりそうだったんですね」
 思い出しても、顔の中身っていうか、目鼻立ちだっけ、そういうのは全然似ていないけれど、雰囲気が本当にそっくりだった。