〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。坂城悟はアルバイト先の店長と話していた男が、紺野夏夫の父ではないかと思い当たる。

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「クラウンの?」
「そうです」
 クラウンなんて滅多に来ないから、覚えていないはずがない。
 そもそもGSで働いている人たちは皆車好きばかりだから、ガソリン入れに来た車のほとんどがわかる。
 珍しい車が来たら、皆で後からその話ばかりしたりするんだ。
 この間は、めちゃくちゃ古いポルシェが入ってきて、あれは一体何年の型だって皆で事務所に置いてある車の雑誌なんか引っ張り出して調べた。
「え? どうして?」
 不思議そうな顔をしてる。そのまま裏の出入り口から帰るから、歩き出して俺がドアを開ける。
 外の空気が、ぶわって入り込んでくる。ここはいつも風が吹いてくるから、雨の日なんかは傘をまず開いてからドアを開けるんだ。
「いや、後ろに乗っていた人、前にどっかで見たような気がしたので誰だったかなーって思っただけなんですけど」
 半分嘘で半分本当。
 どっかで見たようじゃなくて、夏夫に雰囲気が似てる、だけど。
 店長が、鍵を締める。停めてある店長の車に向かって歩き出す。何だか少し困ったような表情を浮かべて俺を見て、首をちょっと捻(ひね)った。
「どこで見かけたのか知らないけど、別に誰でもいいじゃないか。悟くんには関係のない人なんだから」