車のドアを開ける。店長の車は日産のスカイラインだ。けっこう好きな車だ。もう少し昔のものならもっと好きだけど。
 助手席に乗り込む。もうずっとそうだから、ほとんど自分の家の車に乗っていくような感覚。
 店長の奥さんは病気で亡くなっていて、娘さんの貴恵(たかえ)さんは大学生で電車通学。だから、この車に乗るのはほとんど店長と俺の二人。
 乗りこんで、店長がエンジンを掛けたときに、あ、って口を開いてから助手席の俺を見た。
「ひょっとして、悟くん。どこかで見たって、友達のところで見たとか?」
「あ、そうなんです」
 またちょっと嘘をついてしまった。自分でも知らなかったけど意外とこういう場面でアドリブ効かせてしまうんだってわかった。
 新しい自分の発見かもしれない。
「違う高校の友達なんですけど、そういえばそうです。紺野(こんの)って言うんですけど、そいつのところで見かけたのかもしれない」
 店長が今度は、あぁ、って感じで口を開いたまま頷(うなず)いた。
「紺野くんって、夏夫くんだね? 紺野夏夫くん」
「そうです!」
「そうか、坂城くん、夏夫くんと友達だったのか」
 夏夫のことを知ってるんだ店長。
 うん、って頷きながら、車を出す。このまままずは近くの銀行へ。そこに夜間金庫があるから現金の入った袋を入れてから、帰る。
「じゃあ、やっぱりそうですよね。あの人ヤクザの」
 店長が、しーっ、って感じで指を一本立てて口の前に出した。
「そんなはっきりと声に出さないように。そういう人の名前とか素性とかを、そんな簡単に口にしちゃ駄目だよ」
「あ、すみません」
 うん、って頷いた。