「そこまで知ってるってことは、悟くんは夏夫くんとは親しいのかい」
「親しいです」
 はっきり言っておく。知り合ってまだ全然短いけど、バイト・クラブに集まった皆とは、親しいと思ってる。
 何でも話をしている。
 ヤクザな父親のことをあいつがどう思っているかも知っているし、将来どうするなんて話もしている。
 不思議だけど、本当にそれが不思議なんだけど、あの部屋で会って話し始めた瞬間から皆のことを親しい友人になったって思えた。
「どこで夏夫くんと知り合ったんだい? 学校が違うなら、会うことなんかないだろうし」
「あ、部活です」
 そういうことにしてる。
 バイト・クラブだから。
 僕たちの自主的な部活動なんだってことにしておけば、そういうふうに言えば変なふうには思われない。
「でも店長、すみません謝ります。二つ嘘をつきました」
「嘘?」
 ハンドルを回しながらちょっと驚いた声を出す。
「どこかで見た気がしたって言いましたけど、なんか全体の雰囲気が似ていて一瞬夏夫だって思っちゃって。そういえばヤクザの父親がいるなって、ひょっとしたらって思って」
「カマ掛けたのか僕に」
「すみません。本当に気になっちゃって」
 笑った。
「で、もうひとつの嘘っていうのは?」
「嘘というか、部活だけど、普通の部活じゃないです」
「そうだよね。悟くんは部活なんかしていないものな。いや、文化部とかでバイトに来る前にやることにしたのかなって、一瞬思ったけど」
 バイト・クラブのことを他人に説明するときには、ちょっと話が長くなる。
 そして他人にあまり教えないようにはしているけれど、店長なら大丈夫。
 そんなふうに考えないようにはしているけど、親代わりみたいな感じなんだ。店長もそう言っているし。祖父ちゃん祖母ちゃんもそうだ。
 だから、何でも話すようにはしてる。バイト・クラブのこともいつか話そうと思っていたけれど。
 

 

小路幸也さんの小説連載「バイト・クラブ」一覧

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