「料理を作らなくなる」はグレーゾーンの代表的なサイン
若い頃から料理を作るのが大好きで、子どもが自立したあと、栄養士の資格を生かして自宅で料理教室を始めたJさん(66歳・女性)。簡単でおいしい料理が評判となり、遠方からも習いに来る人が増えました。
ところが、5年ほど経った頃、Jさんは急に教室を閉じてしまいました。その後、家族の料理も作らなくなり、台所に立つこともやめてしまったのです。
たまたま私の本を読んだご主人が、料理を作らなくなるのは認知症グレーゾーンの代表的な特徴の一つと知って当院を訪れ、Jさんは認知症グレーゾーンの中期であることがわかりました。
年齢を重ねると、料理をするのがおっくうになることはあります。レパートリーが減り、複雑なレシピが苦手になってくる。これはよくあることです。
しかし、パタリと料理をしなくなってしまったら、認知症グレーゾーンを疑う必要があります。その背景には、意欲と記憶の両方の低下が関係しています。
まず、食材を洗う、刻む、フライパンに油をひいて炒めるといった、基本的な動作はほぼできます。
しかし、前頭葉の働きが悪くなり、判断力が低下するにつれ、調理の段取りが難しくなります。また、記憶力が低下し、料理の手順を記憶しておけなくなりますし、調味料を入れたかどうかも忘れます。さらに、味見をしても味がわかりません。
普段は何気なく行っている料理は、じつは脳がフル稼働していないとできないものなのです。
そうなると、あれほど好きだった料理が楽しくなくなり、こんな料理を作りたい、家族に食べさせたいといった意欲もわいてきません。料理は最高の“脳活”ですから、さらに認知機能が低下していくという悪循環に陥ってしまうのです。