命を背負う責任の重さ
また、事故リスクのプレッシャーも大きい。2023年6月に札幌と函館を結ぶ「高速はこだて号」が対向のトラックと衝突し、運転士を含む5名が亡くなる事故が起きた。バスの運転士にはどうしても交通事故のリスクがつきまとう。
さらに、事故は他車と接触する事故だけではない。発進のタイミングなどで車内の乗客が転倒して負傷してしまった場合。車内人身事故という扱いになり、負傷の度合いに応じて運転免許の違反の点数が加算される。
シートベルト着用が義務づけられている乗用車と、シートベルトの義務どころか立って乗車することも可能な路線バスが、乗用車と同じ基準で事故に関する違反の点数が決まる。
なかなか不条理な話だろう。
運転士が「空いている席におかけください」「手すりにおつかまりください」としつこいくらいアナウンスするのもこれが理由だ。
さらに、避けるのが難しい事故もある。例えば、時々報道で見かける、夜間に酒に酔って路上で寝ている人を轢いてしまう事故。
もちろん運転士はいかなる可能性も考慮して事故を避けるべきだが、この場合は路上で寝ている人の不注意である可能性が高い。それでも死亡事故になると運転士には15点の違反点数が課される*6。
これは一発で免許取り消し、欠格期間1年にあたる。運転免許が剥奪されるうえに、再度取得するにも1年以上期間を空けなくてはならないということだ。つまり、再度免許を取得するまではバスを運転する仕事ができなくなる*7。
自家用車で死亡事故を発生させた場合ももちろん同様だ。
【*6】双方に過失がある場合の死亡事故の点数は13点だが、それに加えて安全運転義務違反の2点が加算され、15点となる。
【*7】ただし、免許取り消しとなっても無給となるわけではなく、再取得までは車庫内での作業など運転免許を使わない仕事をすることになる。職は失わないものの、運転士に支給される乗務手当などは出なくなるため、給料は下がる。ただし、運転士の過失が大きい事故であれば解雇となる可能性もある。