20時には寝て朝5時に起きる健康犬に


そのあと頑張っだが離婚して、ならばおっぽを引き取ろうかと思ったが、既におっぽは祖母と生活リズムを合わせて20時には寝て朝5時に起きるという健康犬になっていた。一日のほとんどを家で過ごす祖母といたほうが幸せだろうなとも思った。祖母とおっぽは仲良くなっていたが、それでも、わたしが実家へ行けば気の毒なほど、おっぽはしっぽをふった。

わたしはその後、肺がんが見つかって手術をしたり、再度いっぱいいっぱいの日が始まって、おっぽのことを忘れる日が続いた。

5年前に母が亡くなり、90を超えた祖母だけでは犬の散歩は難しい、ということで、実家のある愛知県までクルマでおっぽを迎えに行くと、祖母が言った。

「おっぽがいなくなると寂しくなるわ」
「また連れてきますから」

「おっぽは、寒かったり暑かったりすると散歩にいかないでかんわ」
「あ、そうなんだ」

「やーらかいものしか食べんよ、歯が悪いから」
「犬は、歯で噛んで食べるわけじゃないから、歯がなくても何でも食べるらしいよ」

「やーらかいものしか食べんよ、おっぽは。歯が悪いから」
「柔らかいものしか食べない。わかりました」

「おっぽと、私と、どっちが先に死ぬかね?」
「わかりません」

「おっぽも年寄りだけどね、私も年寄りだからねえ、もうあんたと会うのも最後かもしれんがね」
「来月またきますから」

「なに?耳が遠いで聞こえんわ」
「さようなら!」

本連載から生まれた青木さんの著書『母』