35歳の時、当時21歳の大学生だった夫と結婚したというマリさん。お互いの仕事の関係で、世間でいう〈別居婚〉の状態ではありますが――。(文:ヤマザキマリ 撮影:山崎デルス)

別居婚とはなんぞや

9月末から、アメリカのサンフランシスコにある美術館で北米初の大マンガ展が開催され、そこに私の作品も展示されることになり、その手伝いのためにしばらくの間渡米した。

忙しいと携帯電話に意識を囚われず、精神面でも健やかになる。コロナ禍以前はひと月日本、ひと月イタリアという忙しい行き来を繰り返していたが、日本にいる時間が長くなってからは、気がつくと携帯画面を覗き込み、知らなくてもいい情報に振り回されて疲弊することが増えた。なので再びこうして海外へ頻繁に出向くリズムが戻ってきたことには、すこし安心している。

美術館でアメリカ人の女性副館長と食事中、不意に「ところで、あなたは今どこに住んでいるの? イタリア? 日本?」と尋ねられた。税務上の問題で今は住民票が日本にあり、日本にいる時間の方が多いと答えると「ご主人、寂しいんじゃない?」と定番の質問を返された。

夫とは結婚して約25年になるが、挙式をしたのは夫の留学先であるカイロのイタリア大使館で、私はまだ日本で大学の講師やテレビの仕事をしている頃だった。挙式のあとはすぐに日本に帰り、その2ヵ月後にまたエジプトへ戻る。そしてまた日本へ帰って働き、エジプトへ戻る、という生活様式がしばらく続いた。