自然のなりゆきで
今までは毎年夏になると、ひと月半ほど夫が日本へ来て滞在するのが定番だった。しかし今年は、彼が嗜んでいるアルゼンチンタンゴの特訓のために、日本ではなくブエノスアイレスで夏休みを費やした。
良い先生の指導のもとでタンゴを極めたいという夫に、「なんで日本に来ないのよ!」と喚く筋合いは私にはない。
我々のこうした結婚形態を世の中では〈別居婚〉というらしいが、あまり考えたこともなかった。別に仲が悪くなったために離れて暮らしているわけでもないし、離れて暮らすことを前提として結婚したわけではない。
確かに別居といえば別居だが、お互いの仕事の内容上、自然のなりゆきでこうなってしまっただけである。精神面での結束はあるけれど、物理的には離れて生きている、こういう少し変わった夫婦も世の中には存在するのである。
『歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)
パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!






