「家は住む人を表す」という言葉があるが、家屋が家族や友人知人と集うための場所である欧州と違い、人を家に招く習慣のない日本はそうとも限らないとマリさん。では、マリさんの部屋はどうかというと――。(文・写真=ヤマザキマリ)
生まれながらの品格
昨年まで10年間暮らしたパドヴァの家は、築500年になる古い屋敷をいくつかの住居に分割したうちの一軒だった。95歳になる寡婦の家主は高貴な家柄の生まれだが、裕福だった頃の財産は底をつき、現在は分割した屋敷の賃貸料で生計を立てている。
とはいえ、彼女が暮らしているのはヴィスコンティの映画に出てくるような、歴史の重みを纏った壮麗な空間だ。高い天井からはかなり立派なヴェネチアングラスのシャンデリアが吊るされていたが、電気代節約のためか、それが点っているのを見たことはない。
彼女はいつも薄暗いリビングにある立派なゴブラン織のソファに座って、書籍が山積みに置かれた大理石のテーブルを前に、タバコの煙をらせながら読書に耽っていた。
たとえ金銭的に苦しい状況だろうと、貴族の血を引く生まれながらの品格、そして研ぎ澄まされた知性が宿る彼女の人格は、その家の佇まいに余すことなく顕れていた。

