忘れられない出会いが次々と
『ガイズ&ドールズ』の稽古中には、演出家のマイケル・アーデンさんと対談する回もありました。彼はブロードウェイの俳優でもあり、トニー賞に何度かノミネートされているほど活躍中の方。そんな彼の稽古や演出の付け方が毎日新鮮だったので、対談でも気になっていたことを詳しくお聞きできて楽しかったです。
稽古場では、「『ガイズ&ドールズ』はコメディだけど、面白おかしくしようと思わなくていい。それよりも、演じる役の人物が何を恐怖に思っているのかを考えて」と言われたんですよ。
「その恐怖をなんとか乗り越えなきゃという、その様子が面白いのだから、その人物としてやってくれたらいいんだよ」と。細かい演技指導はあまりなくて、本当にそれだけがあればいいという稽古場は、私にとってすごく納得のいくものでした。
マイケルが作品の世界観をどんどん作り上げていく中で、それぞれのキャラクターが“ちゃんと生きて息をして”、それから“人としてそこにいる”ようになり……。あまり演技をやりすぎないほうがいいんだなと気づけたのも、自分にとっては大きな発見でした。
公演中は、マイケルから「開演前に鏡で自分の顔を見るより、相手役さんの顔を見なさい」と。自分の顔を見て不安な気持ちになるより、相手役さんが今日どういう状態かを見てから舞台に出るほうがいい。舞台上で初めて会うんじゃなくて、相手と顔を合わせてから舞台に出てほしいと。
それって当たり前のようだけれど、すごく大切なことだなと思ったので、マイケルから教えてもらったこういう小さなことは忘れずにいたいと思っています。
書籍化するにあたって、コンサート『Look at Me』で音楽監督を務めていただいた、音楽プロデューサーの武部聡志さんとも、スペシャル対談をさせていただきました。
武部さんは長年、松任谷由実さんのコンサートを手掛けている方。意外なことに、宝塚出身者のコンサートを担当するのは初めてだったそうなんです。コンサートの前後はゆっくりお話しする時間がなかったので、武部さんならではの視点でお話が聞けたのは贅沢な時間でしたね。
コンサートではJ-POPも歌ったのですが、普段ミュージカルをやっていると、どうしても感情を込めて歌いたくなってしまいます。でもJ-POPを歌うときは、ストーリーテラーとしての距離感が必要なんですよね。それは分かっているけれど、完全にその歌い方を踏襲すると、ただの真似ごとになってしまう。
じゃあどうするか、とかたくさんのことを教えていただきました。武部さんは音楽業界の偉大な方なのに、ミュージカルしかやったことのない私の側に、常に寄り添ってくださって考えてくださる。知らない間に気持ちよく初めての場所に連れていかれる感覚でした。
対談させていただいた方は皆さん、本当に人と関わることが好きな方たち。私もそういう方たちと出会えて、さまざまなことを知ることが出来てよかったなと、この本を通して改めて思いました。