「これで退団後のひと区切りがついたかなという気がしています」
元宝塚歌劇団の雪組トップスターで、退団後も抜群の歌唱力と厚みのある演技で活躍中の望海風斗さん。今年、菊田一夫演劇賞を受賞するなど波に乗る望海さんが、退団後の日々を綴った『望海風斗 第二幕』を出版。その内容と、今の心境について語ります。
(構成◎藤野さくら 撮影◎木村直軌)

退団後のひと区切りがついて

『望海風斗 第二幕』は、雑誌『日経エンタテインメント!』で約1年半連載したエッセイをまとめたものです。

第1回は宝塚歌劇団を退団した翌年の2022年3月号。ちょうど退団後初のミュージカル『INTO THE WOODS』に出演していた頃で、いま読み返してみると「そんなに考えなくてもいいのに」ということまで気にしていて、不思議な気がしますね。

それから1年半の間にミュージカル5作に出演したのですが、本来の自分を早く取り戻さなきゃと焦っていた時期から始まって、その時々の心境の変化をたどれるのも面白いです。素晴らしいゲストの方々と対談もさせていただいて、そこから視野が広がることがたくさんありました。良い時期に連載させていただいたなと思います。

偶然なのですが、今年の6月から8月に帝国劇場で上演していた『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』のヒロイン、サティーン役は、退団後最初に受けたオーディションでつかんだ役。

その頃は男役ではない、女性の役の演じ方を模索していたのが、『INTO THE WOODS』から『ネクスト・トゥ・ノーマル』、『ガイズ&ドールズ』、『DREAMGIRLS』と経験を積みながら駆け抜け、ついに『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』まで終えました。

「やっとここまで来られた」と感慨深いところへ、9月に『望海風斗 第二幕』を出版。これで退団後のひと区切りがついたかなという気がしています。

対談では、ミュージシャンの菅野よう子さんや水野良樹さん(いきものがかり)など、各界の第一線の方とお会いできたのが得難い経験でした。演出家の野田秀樹さんや白井晃さんがゲストでいらした回は、私なぞがお話ししていいのだろうかと緊張してしまって。

それでも実際にお会いしてみると、やっぱり皆さんも好きなことを純粋な気持ちで続けていらっしゃるのだなというのがよく分かりました。

作品への視点や今の演劇の状況まで聞かせていただくと、感じていることはストレートプレイの方でも私たちミュージカルの者でも同じなんだなと思えました。次第に「私もまったく別の世界にいるわけじゃないんだ。俳優としてもっともっと勉強したい」と考えるようになりましたね。

やっぱり退団直後って、宝塚というすごく特殊な世界から出てきたという気持ちが、どこかにあるんですね。でも宝塚出身で元男役でというのは、確かに個性のようなものがあるかもしれないけれど、別に“ものすごく特別”でもないと気づいたのもこの頃。

そんなことより、これからは自分自身の内側を深めていかないといけないのだなと、対談を通して気づけたのは大きかったです。