太田垣先生「日本人の大半は、自身が認知症になった時の備えをしていません」(写真提供:Photo AC)
厚生労働省の発表によると、成年後見制度の利用者数は2022年末時点で約24.5万人とのこと。また、この利用者数は年々増加の傾向にあるようです。そのようななか「家族がいても『1億総おひとりさま時代』に生きていることを認識していますか?」と問いかけるのはOAG司法書士法人 代表司法書士の太田垣章子先生。太田垣先生は、「日本人の大半は、自身が認知症になった時の備えをしていません」と言っていて――。

自分のお金の管理は自分でできなくなります

5人に1人が認知症になってしまうといわれているのが、日本の長寿社会です。それなのに日本人の大半は、自身が認知症になった時の備えをしていません。

「自分に限って大丈夫……」と思っているのでしょうか?

私のもとに、ご相談に来られた山中さん(仮名・73歳)。認知症で施設に入所してしまった奥さんの銀行口座から、お金を引き出したいと悩んでいました。

専業主婦の奥さんの口座。いったいいくら入っているのでしょうか。

「だいたい80万円くらいですかね……」

これ以外、奥さん個人に資産はありません。既に認知症になってしまって、もはや奥さんの意思を確認できる術がなくなってしまった今、奥さんの資産を使うには、法定後見制度を利用するしかありません

裁判所に、法定後見の申し立てをすると、後見候補人がそのまま選ばれることもありますが、親族の意思にかかわらず弁護士、司法書士等が選任されることもあります。

そしてその法定後見人が、奥さんの口座のお金を、奥さんのために使用していくことになります。

基本、親族の思いは反映されません。後見人がご本人のことだけを考えて、ご本人のお金を使っていきます。

もし山中さんが後見人に選任された場合、毎年奥さんのお金に関する出納帳のようなものを裁判所に出さなければなりません。実は、法定後見制度は、後見人にとっての負担も大きいので、諸手を挙げて賛成することはできない制度です。

どうしても制度を利用するしかない、そんな時に仕方なく使う制度と思ってください。