目標を成し遂げる力
日が経つごとにファンの方々からのお声は強く大きくなり、お手紙もたくさん届くようになりました。その時は知りませんでしたが球団のSNSやホームページには、さらに多くの声が寄せられていたそうです。
ある日、穏やかに晴れていたので車椅子を押して庭に出ました。季節は5月になっていて、暖かな木漏れ日が風に揺れています。慎太郎は春風に耳を澄ましながら、空に向かって目を開きました。
「お母さん」
久しぶりに息子の声は凜としていました。
「俺、やっぱり野球やる。この目標からは、絶対に逃げないことにした」
私は驚いて慎太郎の顔を見つめました。
「このまま視力が戻ってこなかったとしても、諦めないでいたら、いつか必ずできる日が来ると思う。それが目標。目標は絶対、達成する。ずっとそうしてきたし。病気より、目標を成し遂げる力のほうが強いんだって、俺は実証したい」
風が、慎太郎の言葉をすくい上げて空に舞わせるように吹きました。
病気より、目標を成し遂げる力のほうが、強い。
子どもの頃から一つ一つの目標を着実に達成し、積み上げてここまで歩いてきたことは、誰よりも私が一番よく知っています。慎太郎にとって目標とは、そうなったらいいな、というレベルのものではありません。
必ず達成する、という確実な未来なのです。今、彼はこれまで設定してきた中で最も難しく、大きな大きな目標に向かって、一歩を踏み出そうとしているのです。
きっと息子はやるでしょう。誰が何と言おうと、達成するでしょう。不可能を可能にしてみせるでしょう。
だって、昔からそういう子なのですから。
「慎太郎なら、やるだろうね」
私の言葉に慎太郎は笑いました。そう、笑ったのです。手術以来初めて。暗闇の世界でなお、“目標”を見出して初めて、笑うことができたのです。
※本稿は、『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(著:中井由梨子/幻冬舎)
慎太郎、あんたの人生は、奇跡だったよ!!
阪神タイガース38年ぶり日本一の年、28歳で生涯を終えた元選手がいた。
母の目線で描く、もうひとつの「奇跡のバックホーム」――感動のノンフィクションストーリー。