甲子園なのに

びっくりしたのはその後です。いきなり慎太郎から電話がかかってきました。

『あれ、今日いないの?』

「いないって、どこに?」

『甲子園』

「は?」

慎太郎は私が甲子園のスタンドに来ていると思い込んでいたようなのです。いなかったと知ると、

『甲子園なのに……』

とぼやきます。だったら事前に誘ってちょうだいよ、まったく連絡くれなかったじゃない、とこちらも言い返しますと、なんだか不機嫌になって電話を切ってしまいました。

『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(著:中井由梨子/幻冬舎)

見に来てほしかったのか……。電話を切った後、なんだかおかしくなり一人で笑いました。そうか、見に来てほしかったのか。なんだ、可愛いところがあるじゃないの。

まもなく20歳。

球団での生活にも慣れ、ずいぶん体も大きくなり、いっぱしの野球選手になったと思っていたけど、まだまだ子どもの部分もあるのね。

よし、次に甲子園で出場する時には関西まで行ってやろう。甲子園の土を踏む瞬間を、ちゃんと間近で見届けてやろうと思いました。

しかし、その年はそれっきりで、慎太郎は活躍できないまま、あっという間に二軍に落ちてしまいました。

そのまま一軍に上がれることはなく、甲子園で試合することもできないままでしたが、私はあまり焦っておりませんでした。まだまだプロ2年目。勝負はこれからだと思っていたのです。