ロマンチックな一面
それに加え、純粋でロマンチックな一面も持っていました。ある夜、真子と3人で食事していた時のことです。
「明日、プレゼント何がいい?」
ふいに慎太郎が真子に聞きました。明日は、真子の誕生日です。
「プレゼントか……」
娘はリアリストで現金主義。普段から弟に「打てるうちに打って、稼ぐだけ稼いでね」と忠告するくらいですから、この時も真剣に考えたに違いありません。
「時計」
パッと笑顔になって真子は言いました。
「腕時計。可愛くて機能的なやつ。仕事で着けられるような」
「……」
目を輝かせて見つめる姉に対し、慎太郎は黙ってじーっとその顔を見ています。あまりにも無言で見つめられるので真子は怪訝(けげん)な顔をして首をかしげました。
「え、時計じゃだめ?」
「俺、プロ野球選手だよ?」
「うん」
「こういう場合はさ、もっと」
「何?」
「もっと、こう……」
「何よ」
慎太郎は痺(しび)れをきらしたように溜息をついて、
「ホームランでいい?」
「え?」
「ホームランでいいよね」
と一人で念押しして納得すると、さっさとご飯を口に運びました。
「え、何それ?」
真子は腑(ふ)に落ちない様子でしたが、慎太郎は何も答えずそのまま食事を終えました。
まさかホームランをプレゼントする、などというキザなことを考えているのだろうか……と思いましたが、プロの試合でそんなこと、簡単にできるわけはありません。
しかし翌日の試合。
慎太郎はあっさりと、本当に、ホームランを打ったのです。これには真子もびっくりしてすぐに弟に電話しました。
「ごめん……。時計とか言っちゃって……」
(しばらくして、慎太郎は私の誕生日にもまったく同じ質問をしてきましたので、私は迷わず「ホームラン!」と答えてやりました)
※本稿は、『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(著:中井由梨子/幻冬舎)
慎太郎、あんたの人生は、奇跡だったよ!!
阪神タイガース38年ぶり日本一の年、28歳で生涯を終えた元選手がいた。
母の目線で描く、もうひとつの「奇跡のバックホーム」――感動のノンフィクションストーリー。