駒吉神社の大木のことは言えない。ましてや、多嘉原会長の名など日村の口からは出せない。
「そうなんだ」
「私らが何か悪さをしているってのは、中目黒署の刑事さんの思い込みでしょう」
「それ、言えない」
 甘糟はぶるぶるとかぶりを振った。「思い込みだなんて言ったら、何を言われるか……。ホント、中目黒署のやつは居丈高なやつなんだよ」
「何て人ですか?」
 甘糟は、ぎょっとした顔で日村を見た。
「何でそんなこと、訊くのさ」
「甘糟さんや仙川係長は、地元の仲間じゃないですか。それを恫喝(どうかつ)するようなやつは、私らの敵でもあります。名前くらい聞いておかないと……」
「あ、俺たち谷津(やつ)さんの敵じゃないからね。同じ警察官だし……」
「谷津さんとおっしゃるんですね」
 甘糟は「しまった」という顔をした。
「ねえ。ホントに、俺がしゃべったなんて、係長や谷津さんに言わないでよ」
「もちろんです。その谷津さんですが、係長か何かですか?」
「いや、俺と同じ巡査部長だよ」
「それなのに、仙川係長に怒鳴ったんですか?」
「そうなんだよ。びっくりだろう? そういう人なんだよ、谷津さんって……」
「ああ、それはたいへんですねえ」
「あ、わかってくれる? もう、できるだけ相手にしたくないんだけどね」
「そうでしょうね」
「そうでしょうねって、他人事みたいに言わないでよ。あんたたちが、中目黒署管内に出かけていったことが、そもそもの原因なんだから……」
「それは申し訳ないことをしました。しかし、本当に住職からありがたいお話をうかがっただけで……。うちの代表なら話の内容を覚えているはずです。代表に会いますか?」
 とたんに甘糟は青くなった。
「代表って組長のことかい? やだよ、俺。会いたくないよ。じゃあ、また来るからね。くれぐれも、妙なことしないでよ」
 甘糟は、そそくさと事務所を出ていった。