「さっきの話の続きだが……」
「はい」
「人が言うことを急に変えるのは、何か理由があるはずだろう」
「大木さんの場合、警察や町内会の人に言われたことが理由でしょう」
「誠司。おめえは表面的なことで納得する悪い癖がある」
「すいません」
「多嘉原会長は、大木さんがずいぶんと力になってくれたと感謝なさっていた。会長はちゃんと人を見るお方だ。だから、以前は本当に力になってくれたんだろうよ」
「でも、警察には勝てないでしょう」
「まあ、時代が変わったってことだろうが、どうもすっきりしなくてな」
 オヤジがこういう言い方をするのは何かを感じ取っているからだ。大木には何か事情があるのかも知れない。しかし、放っておいたほうがいいんじゃないかと日村は思う。
 どうせ組のシノギにはならないのだ。だが、日村の口からそんなことは言えない。だから、黙っていた。
 すると、阿岐本は言った。
「ちょっと調べてみる必要があるな。そう思わねえか」
 思わなかった。
「何を調べればいいんでしょう」
「駒吉神社や西量寺のご近所のことだ」
「近所の何を……」
「苦情とか反対運動とかさ、そういうのには、必ず言い出しっぺがいるだろう」
「はあ……」
「そういう人が、周囲の意見を取りまとめていくわけだ」
「つまり、神社の縁日にテキヤが店を出すことに反対し、寺の鐘を鳴らすことに反対する人たちの音頭を取っている人物、ということですね」
「そうだ。その人のことが知りたい」
 知ってどうするのだ。
 そう思ったが、日村の立場では訊けない。調べろと言われたらやるだけだ。
「わかりました」
「けどな……」
 阿岐本がふと表情を曇らせた。「俺とおめえがちょっと顔を出しただけで、甘糟さんがすっ飛んで来た。こりゃ、おめえが、目黒で嗅ぎ回ると、面倒なことになるかもしれねえな」
「そうですね」
「若い衆に探らせてみろ。なるべくそれらしくねえやつがいいな」
 それらしくないというのは、ヤクザに見えないという意味だ。
「わかりました」
 話はそれで終わりだった。