奥の部屋を出た日村は言った。
「テツと真吉。ちょっと来てくれ」
「はい」
二人は日村の定席である一人掛けのソファのところにやってきた。
ヤクザに見えないといったら、この二人しかいない。
テツは度の強い眼鏡をかけていて、どう見ても引きこもりのタイプだ。真吉は優男で、暴力沙汰とはまったく縁がなさそうに見える。
日村は、二人に阿岐本から言われたミッションを伝えた。
健一と稔が気になって仕方がないという様子で、ちらちらとこちらを見ている。
話し終えると、日村は言った。
「すぐに行け。場所は、稔に聞け」
真吉が「はい」と返事をする。テツは無言だ。ちゃんと返事をしない若い衆など、ぶん殴られて当然なのだが、なぜかテツは殴る気がしない。
重要な阿岐本組の頭脳だからかもしれない。
二人は即座に事務所を出ていった。何事もすぐに行動が、日村たちの稼業のモットーだ。
少しでも行動に躊躇(ちゅうちょ)があればシノギのチャンスを逃すし、命の危険もある。そういう世界だから、日村たちはすぐに行動する。だから、堅気に負けないのだ。
その日の午後五時頃、また永神がやってきた。
「アニキに呼ばれたんだけど……」
日村は、奥の部屋に行き、永神の到着を阿岐本に告げた。
「おう、来たか」
阿岐本は言った。「誠司。おめえもいっしょに話を聞きな」
「はい」
永神を奥の部屋に招き入れ、日村もまた部屋を訪ねた。