田代が、ふと怪訝(けげん)そうな顔をする。
「それにしても、藤堂さんはわかりますが、どうして原磯さんに……」
「なかなか発言力がおありのようですね」
「ああ、そうかもしれません。あの人、しょっちゅう飲み歩いているんで、人脈も多いですし、連合会の役員もやってますから」
「連合会?」
「原磯さんの店がある商店街の連合会です」
「町内会とは別なのですね?」
「地域が違いますしね。商店街はちょっと離れていますから。それに、町内会は住民の会ですが、連合会は商店の経営者の集まりです。ちょっと会の性格が違います」
「なるほど……。では、原磯さんは連合会の役員と町内会の役員を兼任されているということですね?」
「兼任といってもねえ……。町内会の役員なんて持ち回りだし、普段は何もやってませんよ。連合会のほうが、やれ夏祭りだ、やれフリーマーケットだ、やれ年末商戦だと、いろいろ忙しいと思いますよ」
「そうなんですね」
 町内会も連合会も縁がないので、日村はぴんとこない。
「わかりました」
 田代は言った。「これからすぐに連絡を取ってみましょう。明日、午前十時に本堂でどうです?」
 話が早い。日村はこたえた。
「けっこうです」
 事務所に戻ったのは九時過ぎだが、阿岐本はまだ残っていた。田代の言葉を伝えると、阿岐本は言った。
「明日の午前十時だな。稔に車の用意をさせておけ」
「承知しました」
「おめえも来るんだよ」
「はい」
「じゃあ、俺は引きあげるぜ。あとはよろしくな」
 事務所の上の階に、阿岐本の自宅がある。阿岐本はエレベーターで上に向かった。