義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 稔の運転する車で、すぐに西量寺に出かけた。事務所を出たのが午後七時頃だった。道が混んでいたので、西量寺に着いたのが午後八時頃だった。
 庫裏を訪ねると、田代本人が玄関に出て来た。
「おや、どうしました」
「こんな時間に申し訳ありません。お願いがありまして……」
「私に頼み事ですか? 何でしょう」
「うちの代表が、町内会の人たちと会いたがっているので、ご住職に間に立っていただけないかと思いまして……」
「町内会?」
「取りあえず、町内会長の藤堂さんと、原磯さんにお目にかかれれば、と思いまして……」
「町内会の人と会って、どんなお話をされるつもりですか?」
「それは、代表次第ですが……。おそらく、駒吉神社の件で、住民の方の意見を聞くつもりではないかと思います」
「テキヤの件ですね」
「はい」
「ついでと言っちゃナンですが、うちの鐘のことも話題にしてほしいですね」
「代表に伝えておきます」