「あの……」
 日村は田代に尋ねた。「原磯さんは……?」
「ああ、それがね……。今日はどうしても用があって来られないって言うんだ。原磯さんと話がしたければ、別途段取りしますよ」
「そうですか」
 真吉の話だと、原磯は町内会長の藤堂よりも発言力がありそうだ。つまり、原磯は陰の町内会長ともいうべき存在なのではないかと思っていた。
 今日の会合の主たる目的は、その原磯に会うことだった。だから、日村は肩透かしを食らったような気分だった。
 だが、阿岐本はまったく気にしていない様子だ。
 彼は言った。
「どうも、私どものような者がテキヤの話をするとなると、剣呑(けんのん)に感じられるのも無理はありません。しかし、町内会の方針を変えて、祭にテキヤを入れてくれとかいう話ではないので、ご安心ください」
「安心などできるか」
 河合が言った。「こんなところに呼び出したこと自体が圧力じゃないか」
「まずは、顔見せと思いまして……。今後は、皆様のご都合がよろしいところに参ります」
「今後は、だって? もう二度と会うつもりはないよ」
「では、今日が限りと思って、しっかりと話を聞かせてもらいますよ」
 何気ない一言だが、凄みがある。町内会の三人の顔色が悪くなった。