「何とすさまじく、そして面白い世界なんだろう。よし、ちゃんと戯曲に取り組んでみようと心に決めました」(撮影:大河内禎)
2023年4月から半年にわたって放送されたNHK連続テレビ小説『らんまん』。日本の植物学の父・牧野富太郎をモデルに、時代の変革期を力強く生きる人々が魅力的に描かれました。その脚本を書いたのが劇作家の長田育恵さん。普段は舞台作品を主戦場とし、長篇のテレビドラマは初挑戦。どんな思いで作品に向き合ったのでしょうか(構成:篠藤ゆり 撮影:大河内禎)

<前編よりつづく

 

劇作の世界には、ひょんなことから入った、という感じです。私は幼い頃体が弱く、長く入院していたので、外で遊んだ記憶がほとんどありません。4、5歳の頃からひたすら本ばかり読み、将来の夢は小説家。

1996年に早稲田大学第一文学部に入学し、文学部のキャンパスから一番近いところにあったミュージカル研究会になんとなく入部しました。脚本は投稿制で、お話を書くのが好きだったので書いてみたら、なんとその年の本公演に選ばれて……。しかもミュージカル研究会の伝統として、脚本を書いた人が演出も担当することになっていたので、大慌て。

なにせそれまで、私は演劇を見たことがなかったのですから。ラサール石井さんをはじめ、研究会出身の方が演劇界には多くいらしたので、先輩方に電話で頼み込み、舞台の照明の吊り込みなどを手伝いながら稽古や本番を見せてもらい、勉強を始めました。

初めてお金を払って観に行ったのが、劇団「自転車キンクリート」の『法王庁の避妊法』という芝居です。ラストシーンは台詞が一切ないのに、登場人物が何を考えているかが手に取るようにわかりました。その瞬間、全身がぞわーっと粟立って……。

小説の場合、感情も言葉にして書かなければ成立しません。でも演劇では、言葉がない瞬間のために言葉を費やしていたのか、とびっくり。何とすさまじく、そして面白い世界なんだろう。よし、ちゃんと戯曲に取り組んでみようと心に決めました。

卒業後しばらくは会社勤めをしながら脚本を書こうと思い、17時に帰れる法律関係の出版社に就職しました。のどかな雰囲気の会社で、出版健康保険組合の囲碁大会に会社で出ているのでやってみないかと誘われて、休み時間に碁を打ったり。

碁を覚えようと日本棋院の対局場に通い、そこの事務職の方と知り合って結婚するという、思わぬ副産物もありました。(笑)