「この歳になると、いろいろな方から『元気の秘訣を教えてください』などと聞かれます。そう言われても、特にないんですよ」

膝の痛みという危機を乗り越える

先ほど、私は年齢をあまり考えないと申しました。とはいえこの歳になると、いろいろな方から「元気の秘訣を教えてください」などと聞かれます。そう言われても、特にないんですよ。ただ、よりよい舞台を創りたい、素敵な舞踊家を育てたい。その想いがあるだけです。

朝、起きたらストレッチとラジオ体操。舞踊の基本練習もします。パリージョ(カスタネット)の練習は、毎日1時間程度。1日でも休むと、筋肉が衰えていきますから。

私自身が教えているクラスでは、私も一緒に踊ります。それだけでもかなりの運動量です。食生活では、お肉が大好き。魚も食べますが、やはり肉を食べていないと踊れない気がします。

ライフスタイルは、かなり変わりました。何十年も夜型の生活でしたが、コロナで公演やクラスがなくなってからは、早く寝るようになりました。おかげで朝早く目覚めます。

長いフラメンコ人生のなかでちょっとした危機が訪れたのは十数年前。両膝とも人工関節の手術をすることになったのです。

フラメンコは、靴裏と踵に金属の鋲を打ち付けた専用の靴で踊ります。足で床を踏み鳴らすと音が出るので、リズムを奏でることができますが、これもフラメンコの特色のひとつ。でも、長年続けていると膝に負担がくるのでしょう。耐えがたい痛みに襲われるようになり、杖と車椅子が手放せなくなりました。

そこで思い切って、時期をずらして片足ずつ手術を受けることに。80近くまで踊ってきたのだから、この先踊れなくなってもいいと覚悟しました。ところが数ヵ月のリハビリの後、また踊れるようになったのです。本当にうれしかったですね。素晴らしい先生に巡り合ったおかげです。

手術後につくった作品が、2015年の『天目山 曜変(ようへん)の舞い』です。大阪の美術館で国宝の曜変天目茶碗を見て、感動して。私の原点でもある常磐津の『積恋雪関扉(つもるこいゆきせきのと)』が思い浮かび、関の扉にちなんだ作品をつくりました。今後はそれをさらにブラッシュアップして、再び舞台に上げたいと考えています。