母親からの自立を描いた『スポットライト』
昔の少女マンガにありふれていた「母のいない子は不幸」「継母はみな冷たい」という捉え方に反発し過ぎた名残なのか、私の作品にはしばしば「毒母」が登場します。
「あなたのためにこうしているのよ」と言いながら、娘に自分の夢を押し付けてしまう母親が少女向け、ハイティーン向け、大人向けを問わず結構頻繁に登場します。
思春期や大人になれば親のことも一人の人間として見ることができますが、小学生にはまだ「母は一番身近なお手本」と思いたい気持ちが強いでしょう。
だからこそ思い切って小学生向けに「なかよし」で「母親からの自立を目指す生き方」を描いてみようとスタートしたのが『スポットライト』です。
芸能界で成功する夢に敗れた母は「私は不運、私の道が閉ざされたのは人のせい」とヒロインに夢を押し付けます。女優を目指すヒロインは演じることの充実感に目覚め、母の気持ちを理解しながらも公平で自立した大人へと成長していきます。
最初、この作品は「ガラスの階段」という仮題をつけていましたが、スタートする時には『スポットライト』に変更しました。スタートしてしばらくしたら美内すずえさんが女優の道を極めようとする少女をヒロインに『ガラスの仮面』をスタートさせます。今に続く名作です。
普通、イメージがダブるタイトルはお互いに避けるものです。もし「ガラスの階段」というタイトルをつけていたら美内さんは別のタイトルにしたでしょう。だから私はあのとき「ガラスの……」というタイトルを使わなくてよかった。美内さんのこの作品にこそぴったり、と少しホッとしたのを覚えています。
※本稿は、『漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』(著:里中満智子/中央公論新社)
1960年代のデビュー以来、数々のヒット作を世に送り出してきたマンガ家・里中満智子。近年は自らの創作のみならず、日本マンガ界を牽引する立場としての活動も高く評価され、文化功労者にも選出された。
「すべてのマンガ文化を守りたい」との想いを胸に走り続けてきた75年の半生を自ら振り返り、幼少期から現代、そして未来への展望までを綴る。