令和5年度の文化功労者に漫画家の里中満智子さんが選ばれました。高校在学時の1964年に『ピアの肖像』で第1回講談社新人漫画賞を受賞した後もなお、数々のヒット作を生み出してきた里中さんが歩んだ道のりとは。多くの作品を世に送り出してきた里中さんは「シンプルな恋物語」があまり好きではないとのことで――。
愛とは何かを考える『アリエスの乙女たち』
20代半ば、そろそろ「本気の恋愛もの」を描こうと思いました。
もとより私は、ヒロインの恋が成就してハッピーエンドというような、シンプルな恋物語があまり好きではありません。
編集者に「理屈っぽい」と言われがちな私らしい、愛について真剣に理屈をこねるマンガにしようと考えました。1973年に講談社の「週刊少女フレンド」で連載がはじまった『アリエスの乙女たち』です。
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【原画】ヒロイン2人が様々な経験をしながらも成長する姿を描いた『アリエスの乙女たち』(写真:『漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』より)
この頃は反体制運動やウーマン・リブが盛り上がった時代で、女性も、恋愛を自由に謳歌しようという風潮が社会に広まっていました。けれどその末に、心身ともに傷ついてしまう女性もいるように感じていたのです。
だから、私のマンガの読者である思春期の少女に、きちんと考えた上で恋をしてもらいたかった。大人になる前に、愛とは何かを真剣に考えてほしかったのです。