茶栽培に適した「冷涼多雨」の地

お茶の品質は生産地の気象条件や土壌条件から大きな影響を受けます。茶樹は温暖で湿潤な地域で育てやすい植物のため、特に気温と降水量に左右されやすい性質を持っています。

気象条件としては、年間の平均気温が14~16℃くらいであること。年間降水量が1300ミリメートル以上で、生育期間にあたる4月から9月までは1000ミリメートル以上が目安となります。

八女地方の気象は、日中の気温が高く、夜間は冷え込む内陸性気候で、矢部川流域の山あいでは朝、夕に霧が多く立ちこめます。加えて、年間1600~2400ミリメートルと降水量も多く、いわば「冷涼多雨」。高級煎茶や玉露、かぶせ茶などの栽培には、非常に適した環境にあります。

昔から山間地で育ったお茶はおいしいとされていますが、実際、銘茶の産地といわれる地域は、八女地方のような川沿いの山間地に多く、朝夕に濃い霧がかかるところが多いようです。

なぜ、山間地のお茶はおいしいのでしょうか。

山間地は、平地に比べると日照時間が短く、気温も低く、さらに昼夜の温度差が大きいのが特徴です。そのため新芽の成長が遅く、摘み採る時期も遅れますが、新芽がゆっくりと伸びるので、うま味成分が長く保たれるのです。

また、周囲の木々が茶畑に自然な日陰を作ることによって、カテキン類が少なく、アミノ酸類は多くなる傾向があります。つまり、苦味や渋味が控えめで、うま味や甘味が多く含まれた茶葉に育つというわけです。

伝統本玉露生産者の山口孝臣さん(『八女茶――発祥600年』より)

 

※本稿は、『八女茶――発祥600年』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


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八女茶――発祥600年』(監修:福岡の八女茶 発祥600年祭実行委員会/中央公論新社)

〈八女の玉露はなぜ高級? なぜうま味が濃い? 〉 
 日本茶のなかでも高品質な玉露の産地として知られる福岡県八女。
 室町時代、明より茶の種が持ち帰られ、栽培方法が伝えられてから、2023年で600年の節目を迎えた。
 全国的にみると小さな産地である八女は、いかに高級茶葉の産地となったのか。
 独特な気象条件のもと機械化をせず、手摘みにこだわるなど徹底した手法を貫き、品評会で全国に名を轟かせる「八女伝統本玉露」の圧倒的なうま味、甘み、冴え。一杯の茶が忘れられない体験になるとも言われる。
 今、八女茶は世界的シェフやソムリエとコラボレーションにより、世界へ羽ばたこうとしている。
 日本一の玉露を作る茶の匠を追いかけ、八女茶の魅力に迫る一冊。八女茶の六百史掲載。