乗用車のドライバーからの苦情

クラクション以外にも苦情は来る。

「おい、さっき浦沢駅近くでお前のところのバスに幅寄せされたんだけど! しかも信号待ちで横に並んで俺のほうを睨んできやがった。ケンカ売ってんのか!」

『逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』(著:綿貫渉/二見書房)

電話の主は、一般の乗用車のドライバーで、運転士の動向が気に食わなかったようだ。乗用車のドライバーということは、バスの乗客ではない。

鉄道会社で駅員をやっていると、苦情を言ってくるのは100%客であり、客ではない人から苦情を言われることはなかった*1。

しかし、バスの営業所では乗客以外からの苦情も受けることがある。それに、苦情に対応して理解を得たとしても、バスを利用してくれるわけではなく、何の増収にも繋がらない。考えるほどに気分が重くなってくる。

「申し訳ございません。後ほどドライブレコーダーの映像を確認して運転士に指導します」

その場で事実関係を確認してリアルタイムに対応することはできないので、どうしてもこのような回答になってしまう。このため、対応が長期化することが多い。ただ、折り返しの連絡は不要と、そこで対応終了となることもたまにある。今回もそうなるといいなと思っていると、

「指導しますじゃねえんだよ! だいたいお前らは指導しますとか言って実際は何もしてないだろ! お前らの会社の運転士はいつも運転が荒いんだよ! 今すぐ運転士を呼んできて直接謝罪させろ!」

この調子である。言いたいことはわかる。わかるが、この場ではどうにもできない。

「申し訳ございません。あの……、私が責任をもって運転士に指導します」

このあとにどのように対応しようかと考えることしか頭になく、自信なさげに答えてしまったが、

「それじゃあダメだって言ってるんだよ。お前新人か? そんなんで運転士に指導とかできるの?」

弱気な返答が見透かされたようで、どんどんヒートアップしていく。

【*1】とはいえ駅員が言われないだけで、コールセンターでは客以外からの苦情を受けているだろう。