延々と苦情が終わらない

駅員が駅の改札で苦情を受ける場合、乗客は目的地へ移動している最中であり、時間の制約がある。言いたいことを言い終われば去っていくことが大半だ。しかし、このように電話で苦情を受ける場合、苦情主は自宅で時間がたっぷりある状態で電話をかけてくる

いくら話を聞いても終わらないこともたびたびある。今回もこの調子で30分以上暴言を浴び続けた。

当たり前だが、苦情の対応をしている間でも、運行管理者の本来の仕事もある。翌日以降の勤務や車両の運用を考えていたとしても完全にストップせざるを得ない*2。

結局、今回の苦情についてはひとまず運転士を私が指導し、その内容について折り返し連絡するということになった。

折り返し連絡するには苦情主の氏名や電話番号を聞く必要があるが、大半は普通に教えてくれる。これだけ激しく苦情を言った相手に氏名や連絡先を伝えるなんて、復讐されそうで自分なら絶対にやろうと思わないが、彼らにはそういった考えはないらしい。

今回も、再度彼と電話する必要があることが確定してしまい、今から気分が重い。

苦情を言われた側である運転士の守屋さんが営業所に戻ってきた。苦情があったことを説明し、話を聞く。

「いや、俺は普通に運転してただけで、まったく身に覚えがない」

とのことだ。しかし、「身に覚えがないとのことです」と折り返し連絡するわけにはいかない。ドライブレコーダーを確認する。

「あっ、ここですね」

苦情主が現場の位置を詳しく伝えてきたため、その場所についてはすぐに特定できた。この浦沢駅付近の道路は、片側2車線だが一時的に左側の車線が狭くなるポイントがある。

ここを通過する際は少し右に寄る必要があるが、その際に右の車線を走っていた車が苦情主だろう。その後、信号待ちで並んだ際に睨まれたというのも、確かに守屋さんは右を見ているが、1秒にも満たない時間である。

睨んだわけではなく、信号待ちで対向車線など周囲の動向に目をやったように見える。

浦沢駅付近の道路は、片側2車線だが一時的に左側の車線が狭くなるポイントがある<『逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』より>

「ここは道が狭いので、状況によっては右側の車線を走る車と並ばないように走行してください。また、睨んでいないのは私もわかりますが、ほかの車に誤解を受けるような動きは控えてください」

と守屋さんには伝えた。守屋さんもあまり納得がいっていない様子ではあったが、わかりましたと聞いてくれた。

【*2】非常に頭を使う作業であるので、苦情で中断させられるとかなりのダメージだ。