ヘビーなクレーム対応

次に、苦情主に電話をかける。

「もしもし、先日のご意見の件ですが、運転士に指導いたしました。運転士も反省しており、このようなことは二度と発生しないようにすると言っています」

「そうですか、綿貫さんって言ったっけ? あなたが対応してくれた誠意は確かに伝わってきたけど、俺はあの運転士が許せない。運転士から直接謝罪の言葉を聞かない限り納得いかない

これは困った。

「お気持ちはよくわかりますが、私は運行管理者として、運転士を指揮監督する立場ですので、私が責任をもって指導させていただきました*3」

運転士に対する苦情でも、その対応をするのは運行管理者の仕事であるのは本当だ。

「営業所に運転士がいるんだろ? いま運転中だったら営業所に戻ってからでいいから本人に電話代われよ」

どうするべきか……と考えていると、その様子を近くで見ていた守屋さんが電話を代われと合図をしてくる。本当は良くないことだが、代わってもらうのが一番スムーズにいくだろう。それでダメだったらまた私が対応すればいい話だ。

「お電話代わりました運転士の守屋です。このたびは申し訳ありませんでした」

と答えると、

「あ、あのときの運転士さん? そう、わかったんならいいんだけど。気をつけろよ」

と言い、唐突に電話を切られた。この苦情の対応はこれで終わったが、どっと疲れが出た。

このようなクレームが年に1回くらいであればまだ割り切れるが、小さい苦情は毎日のようにあるし、数十分にわたる対応が必要な苦情も月に数件は発生していた。

ほかの車や歩行者がいる道路を走る上に、遅れは日常茶飯事。苦情が発生する確率は鉄道より圧倒的に高い。私が駅員を務めていた駅では小さな苦情すら1回も言われない日のほうが多かったが、それとは大違いだ。

バスの営業所という職場が苦情対応の面でも、かなりハードだということを思い知った。

【*3】よくテレビで企業の不祥事に関する会見の様子が報道されるが、そこで謝罪しているのもミスや不祥事を発生させた本人ではなく、上司の側だ。それと同じである。

※本稿は、『逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』(二見書房)の一部を再編集したものです。


逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』(著:綿貫渉/二見書房)

元バス営業所職員兼JR職員の交通系YouTuber綿貫渉がバスから日本を見る、まったく新しいバスエッセイ!

日本初・定常運行の自動運転バスに乗ってみた感想や、「キングオブ深夜バス」として知られるはかた号やアメリカのバス乗車記、テレ東「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」プロデューサーとの対談も盛り込んだ、今までにないバスに焦点を絞った1冊!