新規開業のクリニックが良いとは限らない

だから新規開業のクリニックがいいクリニックかというと、それはなかなかイエスとは言い難い。研修医を終えた医師が10年、15年かけて一人前になるように、開業医が開業医として一人前になるには時間がかかる。

ぼくは自分のことを一人前と言っていいか分からないが、今でも患者家族に質問されて答えられないこともある。こういうときは宿題にして文献を調べたり、仲間の開業医に知恵を貸してもらったりする。つまりぼくもまだ学びの途中だ。

開業スタートからいい医療をするためには、やはり準備が必要だろう。自分は何を苦手にしているのか、何を分かっていないかを自分に問いかけてよく勉強しておくことが重要になる。

ぼくの場合、2年間くらい準備をした。小児科の教科書(英語と日本語)をけっこう読んだ。中にはかなり実践的な本もあった。たとえば、『開業医の外来小児科学』(南山堂)。これは1000ページを超す大著で、開業医のために作られた本だ。だから心臓病の詳しい説明などは書かれていない。

開業医が先天性心疾患を治療することはあり得ないからだ。その代わり、外来でよく診る感染症のページが延々と続く。これが実に勉強になり、役立つ。「開業医」という学問はないと述べたが、小児科に関して言えば、この本が開業医の教科書かもしれない。

『開業医の正体――患者、看護師、お金のすべて』(著:松永正訓/中公新書ラクレ)