人体実験は不可欠です

それからこの20年くらい、いろいろな疾患に関してガイドラインが発表されている。ガイドラインとは標準治療を述べたものである。

患者によっては、「標準」ではなく、「特上」の治療をしてほしいと要求する人がいるが、これは言葉の誤解である。

標準治療とは「並」という意味ではない。科学的根拠(よく言うエビデンス)に基づいた治療のことである。したがって標準治療に則って、基準にそった治療をしていくことが最上の治療法と言える。ここは間違わないでほしい。

では、エビデンスとは何かというとちょっと説明が必要であろう。新型コロナの感染流行で、今や政治家までもがエビデンスという言葉を乱発している。だが、そのエビデンスという言葉の使い方は医学的には間違いである。政治家が言っているエビデンスとはデータのことである。「エビデンスがない」というのは、「データがない」の間違いである。

医学界におけるエビデンスにはランクの低いものから、ランクの高いものまで幅がある。最もランクが低いものは、「権威ある医学者の個人的な意見」である。

一方、最もランクが高いのは、新型コロナに感染した患者をA群とB群にランダムに分けて(ここがポイント)、ワクチンを注射するか、生理食塩水を注射するかして、その結果、入院になった数や死亡者の数を比べる研究のことだ。さらに言えば、そういう研究を多数集めたものが最上のエビデンスになる。

それでは人体実験ではないかと思う人もいるだろう。その通りである。エビデンスを得るためには人体実験が必要なのである。1000人の健康な大人に新型コロナワクチンを接種して、そのうち○%が発熱した……というのはデータであって、エビデンスとは言わない。