自分の仕事は「医療」だけではない
開業医の仕事は「医療」が大半だとしても、「家族を支える」という一面も重要である。開業当初、ぼくはそのことを十分に分かっていなかった。
開業したての数年は、ぼくは自分の存在を「単に近所の医者」「風邪のとき薬を出してくれる医者」くらいにしか認識していなかった。ま、自分の存在をその程度だと思っていたわけである。
だが、患者家族と何年も付き合ううちに、自分の仕事は「医療」だけではないと分かってきた。家族にはいろいろな形があって、いろいろな悩みがある。分かりやすい例では不登校の問題とか、体罰になりかねないしつけの問題とか、リストカットなどの自傷の問題とかである。
本来こういうケースは児童精神科に紹介したり、保健福祉センターに相談したりするのが正しいのだろう。
だが、家族の話をよく聞いてみると、ぼくから答えをもらいたいと言われることがある。そうか、こんな自分でも頼ってくる人がいるのか。
不登校の問題など、医学雑誌の特集号で勉強したりするのはもちろんであるが、そこに書かれた文字の力には説得力がないとぼくは感じる。結局、医者の人間力みたいなものが試されるような気がする。