山で出会ったイノシシ――すわってこちらを見ていました

昔は、足の指毛も、丹念に剃ったものだ。でももうそんなことをする必要がない。くり返しますが、人に見せないし、何より毛が生えてこない。

あたしがさかんに腋毛の処理をしていた頃、母が「年取ったら腋毛が生えなくなっちゃったのよ」とふとつぶやいて、この女、信じ難いことを言うと思いながら聞いていたが、今はあたしがその身の上だ。

指のささくれを手当てしながら考えた。指の状態は目に見えるが、足は、むくつけき有様を靴下で隠している。

夫の足の爪はあたしが切った。父の爪はヘルパーさんが切ってくれた。あたしはまだかがめるし、まだ自分で足の爪を切れる。切れるけど、いつも深爪して、痛いと思いながら放置する。小指の爪はひしゃげている。靴下の中で、足は、ささくれだらけの手よりも、身体のどこよりも、老いが溜まってるように見える。

母の巻き爪や夫の肥厚爪なら、専門家がいる。皮膚科でもやってるし、巻き爪の補正店もあった。でもそれは、病的な進行を遂げた爪を持ってからの出会いだと思う。あたしはまだ巻き爪でも肥厚爪でもないのである。まだズンバもできるし、東京にも行ける。ただ一人暮らしで、爪を切ってくれる人がいないというだけ。

てな話を、同世代の友人たちとしていたとき、マラソンやって生爪が剥げちゃったという友人が「近所のネイルサロンのフットケアに行ってみたら、すごくよかった」と教えてくれた。あたしはすぐさま予約を入れた。熊本の郊外で、個人でやってるネイルサロン。足の角質ケアのコースが6000円。