「親って損な役割」が本音です

私は21歳で早くに結婚したので、今、上の娘も下の息子も30歳を越えました。自分自身を振り返ってみると、私はどちらかと言えば「自分の幸せは自分で選べ」という孝雄に近い育て方をしてきたと思います。将来の進路に関しても、どんな相手を恋人に選ぶかにしても、基本的には子どもたちの意志を尊重してきました。

なぜかと言えば、昔から「人は個である」というのが私の考え方。親に自分の価値観や人生があるように、子どもにも自分の価値観や人生がある。そう考えると、親が「こういうふうに生きたら幸せだろう」と勧めても、子どもが「これは自分の幸せじゃない」と思ったら、決して幸せにはなれないですからね。

それよりも、親が子どもを育てる上で大切なことは概ね2つ。ひとつは、我が子がひとりでも生きて行けるように導いてあげること。もうひとつは、自分は誰かから愛されたという実感を抱かせてあげること。親であれ、身近な人であれ、自分は誰かから愛された存在なのだという記憶があれば、途中で多少やんちゃをしたり、ひきこもったりすることがあっても、最終的にはそこから抜け出すことができるはずだと思います。

ひとりでも生きていけるよう導くこと、愛されたという実感をいだかせてあげることの2つが、子どもを育てる上で大切なこと(撮影◎本社 奥西義和)

とはいえ、子どもたちが思春期の頃は親子でぶつかることもありました。とくに、息子とは頻繁に。上の娘は「みんながこうするから、私もそうする」と、割と抵抗なく受け入れていくタイプだったのですが、下の息子は「なぜ、みんなと同じことをしなきゃいけないの?」って。「小学生が、なぜ昔の歴史を勉強する必要があるの?」とか、私に似て理屈っぽい性格なんですよ(笑)。よく言えば、自分の意見や考え方がある。悪く言えば、危なっかしい。

高校生の頃は、友達と遊び歩いて夜中を過ぎても帰ってこないことがしょっちゅうで。そのときは、人様に迷惑をかけてはいけないのと同じように、親にも心配させるようなことをしてはいけないと言いました。その時々の事情があるのだろうけど、だったらきちんと家に連絡を入れなさい、と。「これって意味があるの?」と親に聞くなら、あなた自身も、自分が意味のある行動をしているのかをきちんと考えなさいとも言いました。

今は2人とも結婚して子どももいるので、私のもとは離れましたが、それでも親としてはいまだに心配です。子どもたちの身に良きことがあっても、「この良きことがずっと続いてくれたらいいけれど、突然、良くないことが起きるんじゃないか」と心配になりますし、問題が起きたら起きたで「大丈夫かしら?」って心配になる。親ってつくづく損だなぁって。今作の孝雄のセリフにもあるように「どっちに転んでも、これで安心ということはない。損な役割です」って。そこは私の本音です。(笑)

今作の孝雄のセリフはわたしの本音です(撮影◎本社 奥西義和)