これからは、日々ご機嫌で

昨年55歳になり、人生の折り返し地点を過ぎました。これから先の日々を考えたとき、いつもご機嫌でいることが理想です。というのも、たとえ同じものごとでも、自分の見方や感じ方ひとつでガラッと印象が変わってしまうから。

たとえば、どんなに高級な宿に泊まっても、自分の体調がすぐれなければまったく魅力的には感じない。いくら美味しいと言われるものを食べても、自分の精神状態が悪ければ、せっかくの料理の味がわかりません。反対に、自分の機嫌がよければ、どこに行っても、何を食べても楽しい。つまり、この先の人生を楽しむためには、自分の機嫌をとることが何よりも大切なことなのだと思うようになったのです。

以前は、自分がラクをしたり、楽しむことに「いいのかな?」と、後ろめたさを感じていました。若くして亡くなった母が闘病生活をしていたときも、「母が苦しんでいるのに、私が楽しい思いをしてもいいんだろうか?」と。でも、5年前に心身ともにダウンして、「もうダメだ!」という経験をしたときに、自分で自分の機嫌を取らなきゃ何もできないことに気がついたんですね。

それからは「ラクをすること、楽しく過ごすことに罪悪感を抱かない」をモットーにしています。目下、私が一番ご機嫌になれるのはゴルフをしているとき。ラウンドした後に、みんなで大笑いしながらご飯を食べているときが最高に楽しいんですよ。

小説を書くときも、ご機嫌でいられるように心がけています。気持ちがグッと上がっている状態で書かないと、読んでいる方も楽しくないでしょう。親が笑って生きていれば、子どもも笑う。大人がハッピーに生きていれば、若い人たちも人生に希望が持てる。自分のためにも、人のためにも、「いつもご機嫌で!」をモットーに、これからの人生を過ごしていきたいと思っています。

自分のためにも、人のためにも、「いつもご機嫌で!」をモットーに過ごしていきたい(撮影◎本社 奥西義和)

風に立つ』(著:柚月 裕子/中央公論新社)

問題を起こし家裁に送られてきた少年を一定期間預かる制度ーー補導委託の引受を突然申し出た父・孝雄。南部鉄器の職人としては一目置いているが、仕事一筋で決して良い親とは言えなかった父の思いもよらない行動に戸惑う悟。納得いかぬまま迎え入れることになった少年と工房で共に働き、同じ屋根の下で暮らすうちに、悟の心にも少しずつ変化が訪れて……。家族だからこそ、届かない想いと語られない過去がある。岩手・盛岡を舞台に、揺れ動く心の機微を掬いとる、著者会心の新たな代表作!