小学生との対戦で知った将棋の「厳しさ」
柚月 お会いするのは2度目ですね。2年ほど前に、私の『ウツボカズラの甘い息』の文庫で解説をお願いして。
松井 本屋さんであの本を見かけると、「私が解説を書いた本だ!」って嬉しくなります。
柚月 あのとき松井さんとお話しして、本が大好きな方なんだな、と感じました。たまたまある作品の話になって、「自分だったらこう書きたい」と熱く語られたのが印象に残っています。
松井 お会いしたときには、柚月さんのダークな警察小説『孤狼の血』の映画版が公開された直後で。『ウツボカズラの甘い息』にも、女性のどす黒い部分がたくさん出てきますよね。目の前のふんわりした感じの人から、どうしてこういう作品が生まれるのだろう、と不思議でした。
柚月 作品と本人のイメージが違いすぎる、とよく言われます。(笑)
松井 2017年に刊行されて、今年9月に文庫化された『盤上の向日葵』も刑事ものですが、主人公には上条桂介(かみじょう・けいすけ)という数奇な運命に翻弄される棋士が配されています。解説を書いておられるのは棋士の羽生善治さん! 子どもの頃から、次々とタイトルを制覇していく羽生さんに憧れていたんですよ、私。実際に会えるんじゃないかと思って、公文式の塾にも通いましたもん。(笑)
柚月 そうですか(笑)。羽生さんがCMに出てらしたから。
松井 その流れで将棋に興味を持って、将棋漫画の『3月のライオン』にハマって。作品がアニメ化されたタイミングで羽生さんとの対談が実現したときは本当に感激しました。柚月さんは、昔から将棋がお好きだったのですか?
柚月 私が子どもの頃は、一家に一つ将棋盤があるという時代で、駒の動かし方は父に教わりました。ただ、本格的に関心を持つようになったのは、『盤上の向日葵』の執筆を始めてからです。実戦経験も必要だと思って、一度、千駄ヶ谷の将棋会館(日本将棋連盟の本部。棋士の対戦が行われる)にも行ってみました。係の人に「駒の動かし方くらいしかわかりません」と言ったら、小学校低学年くらいの男の子と対戦をすることになって。ところが、その子がバンバン指してくるんですね。「勝つんだ!」という執念がすごかった!
松井 勝敗は?
柚月 コテンパンに負けました(笑)。将棋は、敗者が「参りました」って言うじゃないですか。小学生に頭を下げることって、日常ではあまりないですから、本当に悔しかったです(笑)。でも、年齢も何も関係ない真剣勝負の世界なんだということが改めて実感できた、いい経験でした。