「実際の人間関係と同じで、作家が登場人物と馴れ合ってはいけないと思うのです。」(柚月さん)

松井 前作の『カモフラージュ』は、それぞれの話が独立していたので好きにキャラを動かせたんですけど、『累々』は全体像がある「長いお話」。書いているうちに、着地点がわからなくなってしまい……。長い物語を最後まで書ききることができる作家の方って、本当にすごいと痛感しました。

柚月 『累々』は、例えば恋に苦しむ女の子の描写から、ナイフではなくて薄い紙で指先をスパッと切られたような痛さ、切なさがひしひしと伝わってくる。その先にあの結末を持ってくるのは、さすがだと思いました。みなさんにも早く読んでもらいたいです。

『累々](著:松井玲奈/集英社)

登場人物と馴れ合ってはいけない

松井 今日は、登場人物に対する接し方のお話も聞きたいと思っていました。『累々』には自分で「つらいなあ」と思いながら書いた箇所もあります。主人公を救ってあげたいと思ったりもするのだけれど、ここは心を鬼にしてどん底まで落とさないといけない、と。

柚月 実際の人間関係と同じで、作家が登場人物と馴れ合ってはいけないと思うのです。だから、この人を救えば読者は喜ぶかもしれないけれど、作品上それは違うな、とか悩みますよね。でも、作品に対して一番責任を負っているのは著者ですから。ハッピーエンドかどうかは別として、キャラクターを行き着くべき場所にきちんと届けるのも課せられた役目なのだ、と自分に言い聞かせながら書いています。

松井 すごく心に響く言葉です。

柚月 ただ、私の作品の登場人物とは、誰もつき合いたいとは思わないかも(笑)。『盤上の向日葵』に出てくる真剣師(賭博で生計を立てる棋士)のなんて、金のためなら平気で嘘をつく。でも、「ほかのことはダメだけど、これをやらせたら抜群」という偏りのある人に、人間臭さを感じてしまうわけです。実際会いたくはないけれど、書いている分には楽しかった。