「ところで、甘糟さん」
 阿岐本が言った。「昨日今日と立て続けにいらしているようですが……」
「あ、はい……」
「私らにできることがあれば、何なりとおっしゃってください」
 甘糟に代わって仙川係長が言った。
「目黒区のほうに出掛けているだろう。その理由を知りたいんだ」
 阿岐本は日村に尋ねた。
「お話ししていないのかい」
「西量寺の住職から、ありがたいお話をうかがっているのだとお伝えしました」
 阿岐本は仙川係長に言った。
「それじゃ納得できないとおっしゃるわけですね?」
「当然だろう。何を企んでいるのか知りたいんだ」
「何も企んではおりません」
「じゃあ、何で目黒区なんかに出掛けていくんだ?」
「発端は、この永神がさる人物を連れてきまして……」
「さる人物……?」
「テキヤの親分です」
 日村は驚いた。そこまで話をするのか。オヤジはどういうつもりなのだろう……。
 阿岐本の話が続く。
「駒吉神社という小さな神社がありまして。そこの縁日からテキヤが締め出されるんだという話で……」
「縁日にテキヤをネジ込もうという魂胆か?」
「そいつはもういいんです。暴対法やら排除条例やらでどうしようもありません。ただ、話をうかがうと、地域でいろいろと問題があるようなので……。駒吉神社だけでなく、近くにある西量寺というお寺では、鐘が騒音だと苦情を言われているらしい」
「それで?」
「それだけです。本当に話を聞いているだけなんです」
「問題があるところに介入して金儲けをするのが、暴力団の常套手段だよな」
「金儲けをする気はありません。こんなことで金を稼げるほど世の中甘くありませんよ」
 仙川係長は、質問することがなくなったのか、しばらく黙り込んだ。すると、今にも失禁しそうなほど怯えている甘糟が言った。
「係長、そろそろ引きあげましょう」
 仙川係長はその言葉に抗わなかった。おそらく、彼も帰るきっかけを探していたのだろう。
「今日のところはこれで引きあげるが、また話を聞きにくるぞ」
 仙川係長の言葉に阿岐本はほほえんだ。
「いつでもどうぞ」