義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 永神が引きあげると、日村は真吉に、スナック『梢』に行くように命じた。
「神主の大木と、町内会の原磯ってやつの関係を調べるんだ」
「二人の何を調べればいいんです?」
「どんなことでもいい。できるだけいろいろ聞き出せ」
「わかりました」
「それから、オヤジが原磯と会いたいそうだ。段取り組んどけ」
「はい」
 真吉はすぐに出かけた。
 まだスナックが開店するような時間ではないが、それは真吉が考えることだ。
 一息つこうと、日村がいつものソファに腰を下ろしたとたんに、携帯が振動した。相手は西量寺の田代住職だ。
「はい、日村です」
「電話しようかどうしようか、迷ったんだけどね……」
「どうかしましたか」
「なんか、住民が暴力団追放の運動を始めたみたいで……」
 珍しいことではない。
「どんな様子なんです?」
「寺の前に何人か集まって、プラカードや横断幕持ってて……」
「危険はないですか?」
「みんな近所の人だしねえ。暇な主婦の人とかだから、危ないことはないけど……」
「わかりました。折り返し連絡します」
「ああ、すまんね」
 電話が切れると、日村は立ち上がり、奥の部屋のドアをノックした。