しばらく考えて、日村はかぶりを振った。「町内会で実権を握ったり、神社の氏子総代になったところで、何の益もないはずだ。普通の人はそんなことは考えない」
「でも、『梢』で聞いたところによると、明らかに原磯はそういう動きをしています」
「人がやりたがらないことを進んでやる、ただの奇特な人なのかもしれない」
 真吉は肩をすくめた。
「自分にはそのあたりのことはわかりません。直接、原磯から話を聞いたらどうでしょう」
「……で、オヤジと会う段取りは?」
「本人に話は通してないんですが、だいたい週末は飲みに来ると、アヤが言ってました」
「今日は土曜日だな。『梢』は土曜日もやっているのか?」
「ええ、やってます」
「わかった。オヤジに話してみる」
 日村はすぐに奥の部屋を訪ねた。
 真吉の話を伝えると、阿岐本は言った。
「そうかい。じゃあ、今夜あたり、『梢』に顔を出してみるか」
「真吉に、アヤと連絡を取らせましょう。原磯が飲みに来るなら知らせてくれるように……」
「店の人がわざわざ知らせてくれるか?」
「真吉なら、それができます」
 相手が女性なら、必ず真吉の役に立とうとする。
 阿岐本はうなずいた。
「そうだな。そうしてくれ」