義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 翌朝、日村は十時に事務所に行き、真吉からスナック『梢』の報告を受けた。
「原磯俊郎は、もう何年も前からの『梢』の常連らしいです。町外れのスナックって、常連でもっているようなもんですよね」
「駒吉神社の大木神主は?」
「こちらは一年ほど前から通うようになったみたいです」
「新しいホステスが入ってから通いはじめたという話だが……」
「ホステスというよりバイトですね。津村綾乃(つむらあやの)、二十四歳。店ではアヤという名です。大木さんは、アヤが気に入って通いはじめたんですね」
 このあたりは、町内会の連中の話と矛盾しない。
「じゃあ、『梢』で大木さんと原磯がいっしょに飲むようになったのは、偶然というわけか?」
「いや、そうでもないようです。アヤがバイトを始める前にも、大木さんは原磯に連れられて何度か『梢』に来ていたらしいですが、アヤが入ってから急にいっしょに来る頻度が増えたということです。俺が思うに、原磯はアヤをダシに使って大木さんを飲みに誘っていたんじゃないかと思います」
「その言い方はちょっと気になるな。原磯に何か魂胆があって大木さんと飲んでいるように聞こえるぞ」