義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 ソファに戻ろうとしたら、インターホンのチャイムが鳴り、稔が日村に告げた。
「香苗(かなえ)です」
 坂本(さかもと)香苗は、近所に住む高校生で、なぜかたまに事務所にやってくる。
「しょうがないな……」
 日村は言った。「開けてやれ」
 稔が解錠すると、ドアが勢いよく開いて、香苗の声が響いた。
「こんにちはー」
 日村は言った。
「おい、ここへ来ちゃいけないと、いつも言ってるだろう」
「どうして来ちゃいけないの?」
「ここがヤクザの事務所だからだ。興味本位で来るようなところじゃない」
 普通の一般人は恐ろしがって近づかない。どうして香苗がここに来たがるのか、日村には理解できない。