「そう言われると、耳が痛えな。ちゃんと任侠やれてるかって訊かれると、申し訳ねえと思っちまう。若い頃は人様のためどころか、ずいぶん迷惑をかけちまった」
「今は違うでしょう?」
「どうだろうね。違うと思いたいね」
「親分……」
源次が言った。「矛盾していることを言うようですがね、私も暴力団はいなくなったほうがいいと思う。でもね、阿岐本組がいなくなったら淋しいんです」
「そう言っていただけるだけでありがてえ」
健一がコーヒーカップを四つ運んで来た。源さんが持ってきたポットの中のコーヒーだ。
それを味わうと、阿岐本が言った。
「うまいねえ。源さん、この味だけはいつまでも変わらずにいてほしいもんだね」
「でも、私もいつまで生きているかわかりません。店も存続できるかどうか……」
「だいじょうぶ」
香苗が言った。「コーヒーも店も私が受け継ぐから」
その言葉は、おそらく香苗が自分で思っているよりも、ずっと強く日村の心を打った。思わず、目頭が熱くなるくらいに感動したのだ。
失われようとするものを、若い世代が守ろうとしている。それが妙にうれしかった。
「源さん」
阿岐本が言った。「お嬢たちがいれば、俺たちは安心して消えていけそうだな」