「いやあ、源さんのコーヒーがここで飲めるなんてうれしいねえ」
「阿岐本の親分。ご無沙汰しております」
「代わりに、香苗ちゃんが顔を見せてくれる。さあ、奥に来てくれ。誠司、お連れしろ」
「はい」
 源次を誘い奥の部屋に行くと、香苗もついてきた。
 源次と香苗が並んでソファに座る。源次の向かい側に阿岐本が腰を下ろし、例によって日村は立っていた。
「おう、誠司。おめえも座れ」
 そう言われて、阿岐本の隣に座った。
 源次がかしこまった様子で言う。
「コーヒーだけお届けするつもりでした」
 すると阿岐本が言った。
「俺に会わずに帰るなんざあ、水くせえじゃねえか」
「息子があんなことをやっていますんで、親分に合わせる顔がありません」
 源次の息子、つまり香苗の父の坂本孝弘(たかひろ)は、地域の暴力団追放運動の中心人物だ。
 香苗が組事務所にやってくるのも、もしかしたら父親に反発してのことなのかもしれない。日村はそんなことを思っていた。